「基本」,「法的思考法」の正体

 合格者や講師は揃って、「基本を大切にすることが合格への近道だ」というアドバイスをします。このことは法律の学習だけでなくあらゆることに通ずる真理であると思います。
 しかし、「基本」とはなんなのか、この具体的な内容を教えずに抽象論を説いたところで、到底、受験生の役に立つアドバイスとはなり得ません。
 そこで今回は、架空の法律を例にとって、僕が理解する法律学習の「基本」について説明していきたいと思います。(わかりやすさだけを考えて作った例ですので、罪刑法定主義他、憲法的な問題点については度外視してください。)

 まず、下のような法律があったと仮定しましょう。

 「コンサートホールに動物を持ち込んだ者には、罰金1万円を科す」

 さらに以下のような事案を想定します。

①Aはペットの犬をコンサートホールに持ち込んだ。
②Bはペットのうさぎをコンサートホールに持ち込んだ。
③Cは自分の0歳の子をコンサートホールに連れ込んだ。

 さて、①~③の事案で、AないしCは罰金を科されるのでしょうか。素人的観察によれば、①②については罰金が科され、③については科されない、という結論になりそうですが、それでは法的解釈論とは言えません。以下、法的解釈の手法を順番に追っていってみたいと思います。

(1)まず、法律要件を定めた部分と法律効果を定めた部分を分解します。本条文では「コンサートホールに動物を持ち込んだ者」が法律要件で、「罰金1万円を科す」という部分が法律効果を示しています。具体的事実が法律要件を充足するものであることが確認されると、法律効果が発生する(いわゆる法的3段論法)ため、僕たちが検討すべきは、当該事案の下で法律要件の充足が認められるか、という点になります。

(2)法律要件をさらに細かく分解します。本条文の法律要件については、「コンサートホールに」「動物を」「持ち込んだ」という各要件に分解することができます。

(3)分解した各要件につきその充足を検討します(あてはめ)。「コンサートホールに」、及び、「持ち込んだ」という部分については充足することに問題はありません。

(4)本文で問題となるのは「動物」の部分で、①犬、②うさぎ、③0歳児がそれぞれ「動物」に該当するのかが問題となります。僕は、条文の文言につき実質的な解釈を加え、規範を定立することにより、形式的文言解釈の下では導くことの出来ないような結論を導出するのが、いわゆる法的思考であると思ってます。

(5)文言解釈の指針として最も重要かつ基本的なものは当該条文の趣旨になります。例えば、本問条文の趣旨が「動物の鳴き声によりほかの客が迷惑を被るのを防止するため」という点にあると考えた場合、「本条文における「動物」とは、鳴き声を発する動物のみを意味する」という規範を定立することができます。この規範に従って①~③について検討してみると、①は「犬」ですので、ほぼ問題なく充足が認められそうです。一方、②の「うさぎ」は鳴き声を発しません(多分。笑)ので、規範には該当せず、結果「動物」には当たらないということになります。そうすると、②では法律要件すべての充足が認められないので、法律効果の発生は認められず、Bには罰金は科されないということになります。

(6)③については、0歳児はそもそも「動物」ではありませんので、法律要件を満たさないのが原則となります。

(7)しかし結論としてそれでいいのでしょうか。いくら動物の持ち込みを禁止しても、まだ自分の感情をコントロールできない乳幼児の連れ込みを許諾してしまっては、コンサートに来たほかの客に対する迷惑防止という条文の趣旨を全うできないのではないのでしょうか。乳幼児についてもその連れ込みにより他の客に迷惑をかけることを防止すべきという要請は変わらないはずであり、条文の趣旨は乳幼児の連れ込みのケースにおいても妥当します。そこで、乳幼児については、同条文の直接適用はないが類推適用がある、ということになります。ここでは「動物」要件は「声や鳴き声を発し、周りの客に迷惑をかける可能性が高いもの」という程度に緩和されることになるでしょう。結論として、③については本文条文の類推適用により、Cに罰金が科される、ということになります。

 若干ややこしかったとは思いますが、実際の法律の事例問題の場合にも、(上ほど単純ではないにしろ)以上の手順を淡々と踏んでいくことで問題を処理できます。この手順を確実に踏めるようになるために必要な知識・理解こそが「基本」ということになります。

 具体的には、
 
 ①検討すべき法律効果を規定している条文の位置を把握していること。条文が引けないことには、法律要件への事実のあてはめという話もでてきようがありません。
 
 ②その条文に関連して論じられる論点が、法律要件の中のどの文言にひきつけて展開されるべきものなのかを押さえており、事案と当該文言を見比べることで当該論点を想起できること。こうすることで、条文の文言へのあてはめという作業に必要な限りで論点を展開するという姿勢が身につき、また、知識を実用的な形で押さえることができます。逆に、例えば「即時取得については、こういう論点と、こういう論点と、こういう論点があって・・・」というように、事案・具体的文言から離れて抽象的に論点を暗記する必要はないし、そのような知識の詰め込みかたはかえって有害でもあります。

 ③条文の文言を解釈するにあたって指針となる制度趣旨(場合によっては本質論や原理原則論)を深く理解し、そこから論理の飛躍なく規範定立にむすびつける論証ができること。これに必要な限りでは、基本書に手を出すことも全く問題無く、むしろ、予備校テキストよりも有益です。ベースとして使っている教材以外に手を広げる場合には、どういった目的で使うのか明確に意識しておくことが重要だと思います。

 細かくいえばもう少しあるかとは思いますが、「基礎の基礎」とは大方上に挙げた部分の知識・理解を指すのではないかと思います。この3点が確実に抑えられていれば、ほとんど引いたことがない条文を適用すべき問題が出題された場合にも、慌てることなく答案を組み立てることができるようになりますし、特に③の知識は汎用性が高いため、いわゆる現場思考型の問題が出た場合にも、趣旨や本質論から論証を組み立てて地に足をつけた議論を展開することができるようになります。

 暗記型の勉強に走ってしまっている方は、上を参考に学習方法の見直しを図ることを強くオススメします。
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